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その親子は、犬神すじとして、町の者から嫌われていた 前編

その親子は、犬神すじとして、町の者から嫌われていた 前編

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89 : 本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2012/02/24(金) 22:45:35.96 ID:AVSsPknX0 [1/5回(PC)]

今から語る話は、僕の母がまだ若かった頃体験した実話だ。いや、実話らしいとでも言っておこうか。あまりにも現実離れしているから、僕も今まで、誰にも話していないくらいだからね。だって話したところで、たぶん誰も信じてくれないだろうから。 
僕の母は若い頃、開業医の兄のもとで看護婦をしていた。 
なので、話の中で看護婦と言えば僕の母、先生と言えば母の実兄の事だと思って下さい。 

当時の医者は、現在のように役割分担がはっきりしていなくて、来る者は拒まず、皮膚病患者から妊産婦まで何でも診ていたらしい。 
ある日の夕方、頭に大怪我を負った女の子が医院に運ばれて来た。 
運んで来たのはその娘の父親で、まさに半狂乱の状態だったという。 
先生は一目で(これは到底助からない)と思ったが、出来る限りの手は尽くした。が、その子はやはり助からなかった。 
娘の亡骸にしがみつき号泣する父親。看護婦はただオロオロするばかりだ。あまりにも哀れで、怪我の理由を聞く事も出来ない。 
先生も看護婦も、その親子とは顔見知りだった。いや、顔見知りも何も、その娘を母親の胎内から取り出したのは他ならぬ先生だったのだ。 
看護婦は、泣き喚く父親を呆然と眺めながら、いつも手をつないでいた親子の姿を思い浮かべていた。 
その親子は、犬神すじとして、町の者から嫌われていた部落の人間だった。 
今では考えられない事だが、差別の対象となっていたその村の出身者は皆、犬神憑きだとされ、町の者から忌避されていたのだ。 

先生は元来物欲のない人で、貧しい者からは一切金を受け取らなかった。ただし無償で診察していたわけではなく、「秋には少し米を分けてくれや」とか「美味い肉楽しみにしてるで」とかで済ましていた。 
そんな人だから部落の者からの信望は厚く、一度医院が火事になりかけた時も、消防団よりも早く彼らが駆けつけ、ボヤで済んだ事もあったらしい。 

突然、号泣していた父親が立ち上がる。 
「先生、俺、絶対許さねえ!みなごろしにしてやる!!」 
そう叫ぶと、娘の亡骸を残したまま医院を飛び出した。 
単純に不慮の事故だと考えていた先生は(まずい!)と思ってすぐに後を追った。 

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